旅と鉄の盲腸にっぽんの駅?な駅へのご招待(私鉄編) >8ページ

近畿日本鉄道生駒鋼索線 霞ヶ丘駅Kasumigaoka

 大阪府と奈良県の境・生駒山に生駒ケーブルがあります。このケーブルは、生駒山宝山寺(生駒聖天)への参詣の便宜をはかる目的で、1918(大正7)年、日本で一番最初に開業した旅客ケーブルカーです。日本でいちばん最初の開業であるほか、日本最長のケーブル(宝山寺線と山上線を合わせて2.0km)であったり、日本唯一の複線路線(宝山寺線)であったりと、何かと個性的かつ貴重な路線です。霞ヶ丘駅は、このうちの山上線にあります。

 宝山寺でケーブルを乗り継ぎ(ケーブル同士の乗換駅というのも珍しいですね)、宝山寺から約5分、この駅に到着します。山上線には2つの中間駅があり、霞ヶ丘駅は山上寄りの中間駅です。ケーブルに中間駅があるのもまた、珍しいですね。私が知る限りでは、ここと比叡山、箱根くらいでしか見たことありません。

 さて1時間に数本の各停ケーブルを降ります。駅は無人、自販機やトイレといったものはおろか駅舎すらなく、ケーブルカー特有の階段状のホームがボテッとあるだけの、非常にシンプルな構造。駅の特徴的な造りもさることながら、改札(って、ないんですけど)を出てみると周辺の風景に驚きます。

 なにも、ない…。

 そもそも、上へ行けば遊園地などの娯楽施設しかなく、人家はもともと稀なところ。レールの間をごりごりと動くワイヤーに注意しながら踏切を渡ると、ほどなく生駒山頂に通じるハイキングコースに出ますが、反対側は未舗装の細い道が藪の中に消えています。このような自然たっぷり(^^;の駅前風景に、果たして「なぜここに駅があるのか」という素朴な疑問が湧き上がるまでには、それほど時間を要しません。実はそれなりの理由があるのです。

 もともとこの路線を建設する際、路線の途中に宝山寺への最寄りとなる(宝山寺駅よりも近くなります)梅屋敷駅を設置する計画がありました。この生駒ケーブル、2両の車両が上下する「交走式」と呼ばれる方式で、井戸の釣瓶ように、ワイヤーの両端に車両を繋げ、滑車にあたるモーターで上下させます。つまり、2両の車両がワイヤーを介してひと組になっているわけで、山上へ向かう車両が梅屋敷駅に停車すると、同様に山麓へ下る列車も停車してしまうことになります。「せっかく止まるなら駅を設けた方が…」という発想があったのかは不明ですが、このような経緯があってこの駅は誕生したわけです。

 ということで周囲の状況はどうあれ、運転上とにかく駅を造るなら必ずこの位置に…という、本来とは逆の発想で生まれたこの駅、存在価値は限りなく薄いわけですが、強いて言えば「梅屋敷駅のためにある駅」ということになるでしょうか。

 多客期に増発される直行列車はこの駅は通過します。先述のとおり生駒山上からハイキングコースも続いてますので、健脚派の方は生駒山上駅から訪れることも可能です。静かなホームに佇めば、麓に広がる生駒の街。夜は怖くてとても降りる気にはなれないですが、絶景を静かに楽しむにはいいロケーションかもしれません。ただケーブルは止まらないものの頻繁運転されていますので、20分に一度ほどやってくる、これ以上ないという派手なデザインの車両の中から不思議な眼差しを全身に浴びること請け合いです(^^)

 


部峡谷鉄道本線 黒薙駅Kuronagi

 富山県の宇奈月温泉からさらに先、黒部峡谷の懐深く分け入るのが黒部峡谷鉄道です。観光目的でトロッコ列車に乗った、という方も多いかと思います。この黒部峡谷鉄道、現在は観光要素が大きい鉄道となっていますが元々は黒部峡谷の電源開発の資材輸送を目的として開業した、業務色の濃い会社。途中駅だって一般客が乗降できない駅のほうが多い、という不思議な鉄道会社です。なもので他社では控えめな業務色がここでは大きな顔して「いじって」とばかりに待ち構えています。路線図に書かれていない、本線から分岐する線路がある。車窓からは一見何だかわからない、謎の構築物が見える。こういった光景を見るにつけ、この鉄道に対する興味はむくむくと湧いてくるわけです。多くの人が終点の欅平まで乗りとおす中、一番気になった駅・黒薙駅で降りてみました。宇奈月温泉からトロッコに揺られること約20分、最初の一般乗降可能駅がここですが、一部の列車しか停車しない、小さな駅です。

 車両からホームに降り立ちます。駅は谷に沿った岩盤を削って作ったと思われる場所にあり、岩壁にへばりつくようにしてあります。スノーシェッド(雪対策の覆い)が目立ちます。駅の出口はどこなんだろう…と、一向に見当たらない出口を探していると駅員さんに呼び止められます。「ハイ、駅出られるのちょっと待ってくださいねー」。そしておもむろに駅員さんによる点呼が始まります。行き先と帰りの乗車列車計画をひと組ずつ聞かれます。この意味はのちほどご紹介するとして、先ほどどこを探しても見つからなかった出口は、トロッコ列車が出発すると現れました。ホームを降り、線路を渡り、岩壁に半ば強引に取りつくように付けられた階段。これが出口でした。階段は急角度で断崖の上へと続いており、行きつく先は黒薙温泉です。駅から出る道はここだけ。そうなんです。この駅、駅を出ても基本的には黒薙温泉にしか行けないんです。あたりはそれ以外には何もないところ。遭難などの事故を避けるためにも、乗降の把握をしておく必要がありそうですね。先ほどの駅員さんの点呼は、主に事故防止のための乗降管理だったんですね。

 そしてその強引な駅前風景?を見ていて気がつくのはすぐ横にあるトンネル。非電化で、ずっと奥まで続いているようですが入口にはロープがかけられています。実はこれは関西電力の専用鉄道、黒薙支線という路線なんです。運行本数が少ないので列車が走るときのみロープが外されるようです。そして実はこの支線、黒薙温泉のすぐ脇を通っており、以前は列車運行がない時間帯は駅員に断ったうえでこのトンネルを黒薙温泉への通路として利用することができたそうです。スタンドバイミーよろしくトンネル歩いて温泉巡り、なんて楽しいことが今はできなくなってしまったのが惜しいところです。

 またスノーシェッドの横には小さなトンネルが掘られています。線路はないし、なんだろう…と思いましたら、こちらは冬季用の人道だそうです。このあたり、冬は深い雪に閉ざされます。線路敷は雪に覆われて歩けないため、このような冬季歩道が終点の欅平まで掘られているのだそうで。厳しい自然の中を通る路線、トロッコなので施設はコンパクトにすむのかと思いきや、自然はそんなに甘くないようです。

 …と、こうやって書いていると駅に目が行ってしまいがちですが、この駅が置かれた目的は、前述の黒薙温泉のために他なりません。宇奈月温泉の源泉である黒薙温泉に、是非ハイキングがてら行ってみてください。開放感があるいい温泉ですよ。そして帰りは、混んだトロッコがやってきても、実にてきぱきと席を開けて必ず乗せてくれる駅員さんの神業も見られます。点呼の目的は、この帰り客の数把握という意味もあるのでしょう。この交通整理も実に見ものです。

 本当に狭い駅ですが、駅すぐ横の後曳橋(あとひきばし)などの絶景もあり、色んな意味で色んな見どころがある、本当に飽きない駅です。おすすめです。

黒薙駅全景 黒薙駅ホームと駅出口


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