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駅木・駅花(エキボク・エキバナ)への旅


 沿線に咲く四季折々の花。車窓からも眺められますが、時間があれば列車を降りて、心ゆくまで眺めてみませんか。ここでは、そんな車窓・駅で花見ができる駅のご紹介です。なお、花の見ごろはあくまで目安で、その年の気候により大きく異なります。確認のうえお出かけください。


津軽鉄道線 芦野公園駅Ashinokoen

 「やがて金木を過ぎ、蘆野公園という踏切番の小屋くらいの小さい駅に着いて(中略)、窓から首を出してその小さい駅を見ると、いましも久留米絣の着物に同じ布地のモンペをはいた若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥えたまま改札口に走って来て、眼を軽くつぶって改札の美少年の駅員に顔をそっと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くような手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。少女も美少年も、ちっとも笑わぬ。当り前の事のように平然としている。少女が汽車に乗ったとたんに、ごとんと発車だ。まるで、機関手がその娘さんの乗るのを待っていたように思われた。こんなのどかな駅は、全国にもそう類例がないに違いない。…」

 冒頭の文章は、太宰治著「津軽」の一節です。太宰治はこの駅を訪れたときの様子を、ユーモアを交えながらこのように表現しています。芦野公園駅は、その太宰治の故郷・青森県金木にあります。

 駅のすぐ北側には県立芦野公園があり、ここが桜の名所として有名です。そしてその玄関口となるこの駅にも桜が植えられ、公園の外縁にあるという環境も手伝ってか、他の駅にはない独特の風情があります。このような県内外に広く知れ渡っている桜の名所ですから、当然人は多いです。ですが、その割にごみごみしていないというか、どかっと落ち着いているというか、不思議なところでもあります。どうしてなんでしょうか。

 何となく他と比べて、歩く人のスピードがひときわゆったりしているように思えます。立ち止まって、ゆっくりと桜を見上げる人が多いように思います。ここでは、春の感じようが、より深いのではないのでしょうか。こちらの冬は、私が住む関西のように決して生ぬるいものではなく、非常に厳しいものです。その厳しい冬を耐え、やがて巡り来る春。その象徴である桜を見ることによって、春を全身で感じている人が多いのではないか。この賑やかさの中の落ち着きは、桜を見る人々の、春に対する無言の叙情なのではないか。薄いピンクの花の下で、そんなことをぼんやりと考えていました。

 冒頭の「津軽」には、弘前公園の桜こそ出てくるものの、芦野公園についての記述は冒頭のあたりにしかなく、ここの桜のことは出てきません。太宰治がこの地を回ったのは桜よりほんの少し遅い時期のようですし、またその頃はこの辺りにはこんなに桜も植わっていなかったか、すでにあった桜もまだ花の少ない若木だったのかもしれません。太宰治が、今のこの駅の様子を、この季節に汽車の中から見たらどう思うでしょう。少なくとも「津軽」には少し違った記述が加えられたたであろうことに違いない、私はそのように思っています。それほどに情感溢れる、北の桜の駅です。

芦野公園駅・改札付近 芦野公園駅・ホーム遠景

◆例年の見ごろ:4月下旬〜5月上旬(満開の時期はこのうちの1週間程度)

◆撮って出し
 芦野公園駅+αの画像はこちらからどうぞ。(画像が多いため、表示に時間がかかる場合があります。)

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JR東日本伊東線 伊豆多賀駅Izu-taga

 サクラは古来から日本人に親しまれ、その生活の中に溶け込んできた樹木です。当然にして駅にもたくさんのサクラが植えられ、郊外なら1つの駅に少なくとも1本のサクラがある、といった状況も少なくありません。そんな中、「サクラの駅」として推すには本数が多いとか、樹齢が高いとか、そういったそれなりに他に抜きん出た要素が必要になってきます。この駅はどちらかといえば「他の駅に比べて本数が多い」ということになるでしょうか。

 東海道本線熱海駅から伊東線の各駅停車で2駅、伊豆半島の付け根にあるのがこの駅です。交通も至極便利で、関東近県なら比較的訪れやすいところです。

 植わっている桜は駅周辺に数十本、というところでしょうか。私は訪れたときは満開まで1週間程度早い状態でした。駅舎やホームを取り囲むように植えられ、満開の時期にホームで電車を待っていると、まるで桜のトンネルの中に居るような気分にさせてくれます。そしてここのもうひとつの魅力は、海も合わせて眺められることでしょうか。ホームは高台にあり、駅を出ると坂道があり、その先には相模湾が広がっています。春の穏やかな一日、駅のホームから桜を通してみる相模湾の光る水面…。春の訪れを肌で感じるとともに、帰りたくなくなってしまうような光景が、あなたを待っているかもしれません。

 ところで、行ったときに感じたことをひとつ。これら絢爛豪華な桜の木ですが、年々少しずつ樹勢に衰えが見られるようになったと感じたのは私の気のせいでしょうか。訪れたのがまだ早かったとはいうものの、花のつきが少しずつ少なくなっているように感じられました。これから先いつまでも毎年美しい花を付けて楽しませてほしい、と祈るばかりです。

 この駅は伊豆への通り道にあります。もし訪れたときが桜の時期だったのなら、特急で通過してしまうのは非常にもったいないことです。伊豆観光の前、普通電車に乗って次の電車までしばしの間、このホームに立ってみる。華々しい観光地ではありませんが、静かな美しさが待っています。また駅前にはシダレモモなど、ちょっと変わった木々も植わっていますので、これらを見るのも、花好きの方には楽しいでしょう。

伊豆多賀駅・駅看板と桜 伊豆多賀駅

◆例年の見ごろ:3月下旬〜4月上旬(満開の時期はこのうちの1週間程度)

◆撮って出し
伊豆多賀駅+αの画像はこちらからどうぞ。(画像が多いため、表示に時間がかかる場合があります。)


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