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駅木・駅花(エキボク・エキバナ)への旅


 沿線に咲く四季折々の花。車窓からも眺められますが、時間があれば列車を降りて、心ゆくまで眺めてみませんか。ここでは、そんな車窓・駅で花見ができる駅のご紹介です。なお、花の見ごろはあくまで目安で、その年の気候により大きく異なります。確認のうえお出かけください。


いすみ鉄道線 東総元駅Higashi-fusamoto

 千葉県の中南部、JR外房線の大原駅から山間の上総中野という駅を結ぶのが、第3セクターのいすみ鉄道です。もともとは国鉄の木原線という名の路線でしたが、転換して生き残り、現在では27km弱の路線をのんびりと走っています。

 ここの見どころは春の使者ともいえる菜の花です。長かった冬もようやく終わりを告げ、やがてやってくる春風とともに、沿線には黄色いじゅうたんが広がります。モノトーンであったり、視界に何かと暗色系の風景が目につきやすい冬。そしてその終わりを告げる春の使者が一番鮮やかな黄色の花を付ける。自然はときに粋なことをしてくれると思います。

 第3セクターになり、沿線に有名な観光名所もなく、利用者の目だった増加も見込めないかもしれないこの鉄道にとって、何とか利用者増へ結びつく起爆剤を、と考えられたのがこの菜の花だったようです。今ではほぼ全線の線路際の遊休地・休耕地に植えられ、シーズンには列車に乗っているとまるで黄色い回廊を行くような、素晴らしい風景が楽しめます。

 また菜の花は一年草。サクラなどと違ってその年に枯れてしまうため、毎年植えないと花は咲きません。そこで毎年種まきの時期には、職員の方を始め多くのボランティアの方々の手によって一斉に種まきがなされます。来るべき春のために、前年から総出で取り組む。この手作り感も魅力のひとつなのかもしれません。

 ここにご紹介する東総元駅は、路線の中継地・大多喜から2つ中野寄りの駅です。駅前にある駐輪場より小さい待合室があるだけの、のどかな無人駅です。ホームから見る菜の花も十分に見ごたえのあるものですが、時間のある方には是非駅を出て踏切を渡り、土手の下から駅を眺めてみてください。菜の花のシーズンなら、踏切を渡ったあたりで真っ黄色の斜面が目に飛び込んでくるはずです。私が訪れた2006年は冬が寒かったせいもあり、生育が今ひとつだったため花も少ないとのことでしたが、それでも言葉を忘れて立ち尽くしてしまうほどでした。辺りに漂う控えめな菜の花の香り、背中に当たる陽光、時折聞こえる鶯の声。自然が五感すべてに訴えかけてきます。

 今いすみ鉄道は、経営の危機に立たされています。近々結果を出すようですが、前途は依然として厳しいようです。ひょっとするとこの菜の花回廊も、数年先には見られなくなる可能性もあります。菜の花のほかにもサクラ、アジサイなど、折々に楽しめる花は沿線にたくさんあります。気になった方は、カメラ片手に是非列車に乗って訪れてみてください。

東総元駅ホーム 東総元駅・近くの踏切から

◆例年の見ごろ:3月中旬〜4月中旬

◆撮って出し
 東総元駅+αの画像はこちらからどうぞ。(画像が多いため、表示に時間がかかる場合があります。)

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JR東海御殿場線 谷峨駅/山北駅Yaga/Yamakita

 一挙に2駅も挙げるなんてちょっと反則かなとも思いつつ、でも挙げてしまいます。神奈川県西端にある、御殿場線内の隣り合った2駅です。行ったときは曇りから雨で、暗めの画像が多いことをご容赦ください。

◆谷峨駅
 天下の険・箱根の北側に位置する、山間の静かな無人駅です。趣のあった駅舎はとんがり屋根の瀟洒なものに建て替えられてしまいましたが、雰囲気がいい、個人的に好きな駅です。桜は駅前と上下ホームにあります。私が行ったときは若干早めといった感じだったのですが、それでも楽しませてくれるには十分なものでした。山北駅とは標高に差があるため、満開の時期は1週間程度ずれることが多いようです(満開の時期は谷峨のほうが後)。静かに落ち着いて桜を楽しみたいとき、山北駅が満開だったときには電車でひと駅、この駅に降りてみてください。山北とはまた違った、この駅にしかない独特の魅力を発見できると思います。

◆山北駅
 この駅にも桜があります。ホームからも見えるのですが、実際には少し歩いたところにありますので、お題に掲げている「駅で楽しめる」という部分にはやや疑義があります。私がこの駅を単独で推薦しなかった理由は、ここにあります。ただ、見事としかいうほかない桜のトンネルをそれだけの理由で無視してしまうのはあまりに忍びなく、駅構内からも見えないことはないので、ここに推薦させていただきます。

 掘割の中を走る御殿場線の線路を見下ろすように、桜の木が約130本植えられています。よく手入れされているのか枝ぶり、花ともに非常に立派なもので、満開の時期にはうすもも色のぼんぼりを付けたような素晴らしい光景が続きます。谷峨と違い、花見をする人も多いです。もちろん列車の中からも眺められますが、桜は高いところに植わっていますので車内からは見づらいです。是非列車を降りて、現地で実際に見ていただくことをお勧めします。

 ということで、距離にして約4kmの差、それぞれ違った面を持つ2つの駅です。行く時期、気分、その他諸々の事情で駅を変えてみるというのも面白いかもしれません。私のように欲張りな人は両方行くのもいいでしょう。でも片方の満開に合わせて行くと、一方は満開にやや早いか、やや遅いかのどちらかです。

 ・・・ご存知の方も多いと思いますが、御殿場線は現在の丹那トンネル・熱海経由のルートが開通するまでは東海道本線でした。路線は短期間ながら複線化もされ、かつての特急「燕」もここを走り抜けていたことがあります。ことに山北は箱根越えの基地となったところで、ここから沼津に向けて後押しの機関車を連結するため、構内は広く、多数の蒸気機関車が行き来し、最盛期には1日の連結・解放回数が150回にのぼったこともあったそうです。しかし、日本を代表する幹線から一ローカル線へと変貌してしまった今、その広い構内も無用となり、現在は縮小されてしまいました。

 ここに咲く桜は樹齢約50年。丹那トンネルが開通し、この区間が御殿場線となったのが昭和9(1934)年。ということで、ここにある桜は御殿場線の黄金時代を知らない木たちです。桜は今の環境を静かでいいと思っているのか、それとももっと賑やかで、たくさんの人たちに見てもらえるほうが良かったと思っているのか。樹木に意思があるかどうか分かりませんし、あったとしてもそれを知る術はありませんが、ともかくもただひたすらに、毎年素晴らしい花で私たちを魅了してくれます。

 この駅に行った日は雨でした。家に帰って、傘を干そうと広げると、雨に打たれた花びらが数枚、くっついていました。知らないうちにお土産を持って帰ってきていたようです。

谷峨駅 山北駅

◆例年の見ごろ:3月下旬〜4月上旬(満開の時期はこのうちのそれぞれ1週間程度、山北駅と谷峨駅とではおおむね1週間程度のずれがあります。)

◆足をのばして
 箱根や丹沢湖は言うに及ばず、近郊には見所がたくさんあります。山北駅には隣接して鉄道公園があり、かつて御殿場線を走った蒸気機関車も保存されています。また同じ敷地には健康福祉施設「さくらの湯」(温泉です)もあり、花見の帰りにはうってつけです。また変わったところでは「線守稲荷」というのもあります。御殿場線の線路工事の際、巣を壊されたキツネが牛や石に化けたり、信号を赤にして列車を止めたりしたそうです。結局キツネは汽車に撥ねられて死んでしまうのですが、これを悲しんだ村人が祠を作って祀ったのが始まりとされています。以来線路の守り神として、峠を往来する列車と線路の安全を見守っています。旧箱根第二トンネルの上にあり、毎年春には祭主をJR御殿場工務区長とした例祭が、鉄道関係者で執り行われます。

◆撮って出し
 谷峨駅・山北駅の画像はこちらからどうぞ。(画像が多いため、表示に時間がかかる場合があります。)

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