沿線に咲く四季折々の花。車窓からも眺められますが、時間があれば列車を降りて、心ゆくまで眺めてみませんか。ここでは、そんな車窓・駅で花見ができる駅のご紹介です。なお、花の見ごろはあくまで目安で、その年の気候により大きく異なります。確認のうえお出かけください。
JR東日本中央本線 勝沼ぶどう郷駅Katsunumabudokyo
勝沼ぶどう郷駅は、個人的にはちょっと思い入れのある駅です。子供のころ、祖父に連れられてこの駅に降り立ちました。その時は「ぶどう寺」として知られる大善寺の宿坊に泊まってしこたまぶどうを食べ、近くの山で虫取りをしました。当時駅名はまだ「勝沼」で、桜の季節ではなかったからか、初めて見たスカ色の115系電車で到着し、駅舎がコンクリート造であったという以外、特別な記憶がありません。通ることはあれど久しく降りていない思い出の駅。桜の季節に訪れてみることにしました。
当時はなかった長野色の115系で降り立ちますと、ホームにはそこそこの傾斜があります。もともとはスイッチバック駅だったそうです。駅の横にはスイッチバック時代のホームが残されていましたが、これは記憶にありません。当時はおそらく駅に着いて、すぐタクシーにでも乗って宿に向かったのだと思います。ホーム跡をゆっくりと歩いてみます。両脇には樹齢50年はゆうに超えるだろう桜の木々が植えられ、そしてそれらが一斉に花をつけ、何とも言えない美しさです。
駅舎は駅前の光景はほぼ変わっていないはず…なのですが、桜が咲いているからか、どうも勘が狂います。あるいは自分の中で記憶がいいように書き換えられているのかもしれません。約30年前とは言え、人間の記憶っていい加減なものです。
さてそんなノスタルジーはさておき、初めて見たこの駅周辺の桜、豪華絢爛という言葉がぴったりするほどの美しさです。本数もさることながら、個々の木が大きく、花がたくさんついてます。またホーム築堤の端から端まで広範にわたって植えられているため、ホームから見ますとあたかもそれが桃色の屏風のように広がり、何か絵画の中に入り込んだような気持ちになってきます。ぶどう郷駅、なのでぶどうの印象が強いですが桜もまた大変美しい駅です。この駅は是非来訪をお勧めします。息を飲むほどの美しい桜が、あなたを待っていると思います。
◆例年の見ごろ:3月下旬〜4月上旬
◆撮って出し
勝沼ぶどう郷駅の画像はこちらからどうぞ。
わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線 沢入駅Souri
紀行作家の故・宮脇俊三氏が国鉄全線完全乗車を果たした国鉄足尾線。時代は巡り、国鉄足尾線はわたらせ渓谷線と名を変え、第三セクターになりました。沢入駅はそのわたらせ渓谷線の終点近くにあります。
そうり、と読み、難読駅としても有名です。少し前は「そおり」と読んだと記憶していたのですが、調べてみると第三セクター化と同時に読みを変えたようです。現地に赴きますと駅舎には沢入簡易郵便局が同居しており、これもなかなか珍しいです。そして初夏、この駅をひときわ鮮やかに彩るのは、ここで取り上げるアジサイです。
駅の下りホーム側には遊歩道が整備され、駅周囲や渡良瀬川べりあたりまでを散策できるようになっています。アジサイはここに植えられています。シーズン中は列車がホームに滑り込むと、車窓は一気に目の覚めるような青色に染められます。ここのアジサイの特徴は、どれも花の色が濃く、そして大きくて立派なこと。大切に手入れされ、育てられてきた結果だと思います。アジサイの後ろに、列車から眺める人のことを想い、丹精込めて手入れされてきた方々の姿が見え隠れするような気がします。
私が訪れた時は花の盛り、ちょうど「あじさい祭」が行われていました。駅舎側には屋台が出、結構な人出です。それに比べて下りホームの遊歩道側は特に出店もなく、花を見るために静かな環境が用意されていました。そういった配慮に感謝しながらゆっくり見て歩くことができました。
ちなみにこの駅、大抵は列車交換が行われ、5分程度の停車時間があります。時間のない方でも楽しむことができるお勧めの駅です。私も雰囲気だけでも味わってもらおうと写真を撮ってきましたが、拙い腕ゆえ、情けないかなそれが伝わるかどうか疑問です。是非、是非訪れてその美しさを実際に目にしてみてください。
梅雨の合間の真っ青な空の下、それに負けないくらいの青さで咲くここのアジサイには、他の駅で見るそれよりも、ひときわ注がれた愛情を感じることができる気がします。
◆例年の見ごろ:6月下旬〜7月上旬
◆撮って出し
沢入駅の画像はこちらからどうぞ。