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駅木・駅花(エキボク・エキバナ)への旅


 沿線に咲く四季折々の花。車窓からも眺められますが、時間があれば列車を降りて、心ゆくまで眺めてみませんか。ここでは、そんな車窓・駅で花見ができる駅のご紹介です。なお、花の見ごろはあくまで目安で、その年の気候により大きく異なります。確認のうえお出かけください。


 JR東日本飯山線 信濃平駅Shinanotaira

 信濃平駅は、冬は豪雪地帯となる地域を走る、飯山線にあります。

 この駅のみならず、長野県北部・北信地方ではゴールデンウィークの頃になると、あたり一面に黄色い菜の花が咲き乱れます。一般的に菜の花は3月頃、春早い時期に咲きます。寒い地域とはいえ、咲く時期が一般的な菜の花と大きくずれているような気がしますが、どういうことなのでしょう。

 実は「菜の花」とはアブラナ科の黄色い花のことを指し、一番一般的なアブラナの花(これがいわゆる「菜の花」)のみならず、アブラナ科のいろいろな植物の花が含まれているわけです。つまり、アブラナもカラシナもすべて花は菜の花。「ナノハナ」という名前の植物はないんですね。私がここで菜の花を漢字で書くのはそのためです。

 では、ここに出てくる菜の花は何なのか、ということなのですが食べ物として皆さんおなじみの植物です。実は野沢菜なんです。私自身このことを知ったのは最近ですが、アブラナに非常によく似た黄色い花を咲かせます。見た目はアブラナなどとほとんど一緒でなかなか区別はつきにくいですが、飯山周辺で、この時期に咲いている菜の花はほとんどが野沢菜なのだそうです。

 そしてその野沢菜は、元をたどると「天王寺かぶら」という野菜に行き着きます。江戸時代、野沢村にある健命寺の18代目住職・晃天園瑞和尚が京都へ修行に行った折にこのかぶらを食べる機会があり、野沢でも栽培しようと種を持ち帰り植えたところ、気候が違うせいか蕪にはならず、葉だけが大きく伸びてしまったといいます。これが野沢菜の始まりだとされています。ということで、案外関西と縁の深い野菜なんですね、野沢菜。親近感を感じてしまいます。

 さらにもうひとつ、意外なお話を。「おぼろ月夜」の作詞をした作詞家・高野辰之さんという方がいらしゃしますが、この高野氏は近隣の中野市出身です。この「おぼろ月夜」は高野氏が少年時代をすごした北信地方の風景を織り込んだ歌であるとされています。歌いだしの「菜の花畑に 入日薄れ」という、この菜の花。これも、野沢菜の花である可能性が高い、ということなんです。

 皆さん一度は食したことがある、食卓に並ぶことが多い食べ物が黄色い可憐な花を咲かせ、そしてその花が唱歌の中に登場する、というのはあまり知られていないことですよね。

 そして信濃平駅ですが、ホームの向かいには休耕田と思しき土地があり、ここに菜の花が咲いています。駅は駅舎代わりの貨車のみが置かれた、片面ホームだけの非常に簡素な駅です。そのシンプルさが眼前に咲く菜の花を盛り立てているような気がします。ここに咲く菜の花は果たして野沢菜なのでしょうか。野沢菜はアブラナに比べて若干背丈が低いのですが、ここに咲く菜の花はちょっと背が高いような気もします。栽培しているようでもないですし、他の植物と交配が進んでしまったのでしょうか。ともあれ、咲く時期が違うので、野沢菜であることは確かそうです。

 春の暖かな一日、ホームに座って、普段は見られない少し違った菜の花を眺めてみるのもいいかもしれませんね。

信濃平駅・駅舎 信濃平駅・ホームと菜の花

◆例年の見ごろ:4月下旬〜5月中旬

◆足をのばして
 菜の花関連では飯山市の菜の花公園は外せないでしょう。園内の40000uには野沢菜が作付けされ、視界一面に黄色い菜の花畑が広がる光景を目にすることができます。毎年5月初旬には「菜の花祭り」が催されます。飯山駅からバス利用。

 また本文にも出てきました野沢温泉村の健命寺は、野沢温泉街にあります。寺には畑があり、ここに野沢菜の原種が栽培されています。13ある共同湯とセットでめぐるのも楽しいかもしれません。

◆撮って出し
 信濃平駅を含む、周辺地域の画像はこちらからどうぞ(その1その2)。

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山電鉄鞍馬線 二ノ瀬駅Ninose

 京都市の北部を走る叡山電車には、季節ごとに沿線の風物を求めて多数の人が訪れます。このあたりの駅になると平日よりも休日のほうが列車本数が多く、観光的色彩がかなり強く出ていることが伺えます。私自身、こういった「正しい観光地」のようなところは苦手で、それ故、関西に住んでいながら京都は長く足を運んだことのないところでした。

 叡山電鉄にはじめて乗ったのは数年前です。そして去年、紅葉の時期に通りかかったのですが、そこはやはり観光地、美しいんだけれども、なんとなく降りてみるきっかけがつかめないというか(ある意味へそ曲がりで贅沢ですよね)、ある種の不全感を抱えて路線を往復しました。

 紅葉でいうと、貴船口、終点の鞍馬などが有名で、とりわけ貴船口では夜間はライトアップまでされています。確かに美しいのですが、そこはやはり人が多く、落ち着いて眺められるものではありません。そんななか、復路のとある駅で目が止まりました。それがこの駅だったのです。

 行きでは反対側に交換の電車が止まっていたので見えませんでしたが、この駅にもカエデがありました。そして貴船口には本数で明らかに見劣りするものの、ひっそりと立つ姿に、心惹かれました。反射的に降りてしまいます。

 電車を降りると、貴船口や鞍馬の混雑がうそのような静けさ。同じ目的で降りたのか、カメラを持った方が2人という状況です。初冬にかかろうかという季節、少し肌寒い空気が身を包み、背筋が自然に伸びます。レトロ風の待合室もいい雰囲気。そして何より、その物静かな構内。人ごみなど気にせず、ゆっくり眺めることができました。いわゆるA面的な有名駅も素敵ですが、それに隠れるようにたたずむこういった駅もまた、それ以上の魅力があるように思います。私が訪れたときはすでに紅葉には遅めでしたが、はらはらと舞い散る葉を見ながら、物思いに耽ってきました。

 帰りがけ、電車に乗ると向かいに座っている高校生の足元に、忘れられたようにカエデの葉っぱが一枚、落ちていました。

二ノ瀬駅・味のある待合室 二ノ瀬駅・駅名票とカエデ

◆例年の見ごろ:11月初旬〜中旬

◆撮って出し
 二ノ瀬の画像はこちらからどうぞ。


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