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◆◆管理人の妙なこだわり◆◆
経由地表記の謎

 きっぷ、ありますね。きっぷには発駅、着駅、金額などの情報のほかに、小さいながら経由の表示があります。「○○→△△」という字の下に駅名や線名が小さく書かれている、あれです。

 で、このあいだ川口さんところの掲示板で、「あれの基準って、一体どうなってるの?」と話題になったんですね。じゃあ、調べてみよう、ということで打ち出した?企画がこちら。えー、かなり、ややこしいです。お手もとに時刻表をご用意してご覧下さい。

 なお、この稿に出てくる経由地は、こちらから経路の指定をしたものではなく(一部を除きます。)、発駅と着駅を指定して出てきたきっぷの経由地のみを取り扱っています。


 と、いうことで、ここでは「きっぷの経由地表示はどういう基準で決めているのか」ということについて、実際に発券された普通乗車券を例に考察(というか、殆ど推理ですが)していきます。なお、分かっているものに限り、根拠として旅客営業規則(JR西日本のもの)の条文を付けました。本文中(規則○条)とあるものがそれです。

 なお、経由地表示については、間違いなくJRで取り決めがあるはずなんですが、そーゆーのに疎い(というか、そこまで調べる気がない)管理人ですので、調べておりません。あくまで一定の根拠に基づいた個人の推測であることをご理解下さい。

「経由」って?
 「経由駅」は、「きっぷの発駅から着駅に行くときに必ず通らなければならない駅」をいいます(規則67条)。つまり、「経路の特定」ですね。スタンプラリーのチェックポイントとか、林間学校のオリエンテーリング??のようなもんですね。

そして、経由地が表示されるのは・・・
発駅と着駅が指定されたもの。これが絶対です。つまり金額式のきっぷ(「大阪→120円区間」というやつです)には出てこないんですね。どこに行くかが指定されていないきっぷですから、経由地の特定のしようがありません。また、回数券や、特急券と1枚になったきっぷなど、一部の乗車券には表記が省略されているものもあります。

 では、実際のケースに沿って見ていきましょう。


1.経由駅表示と、経由線表示がある。
case1.「金沢から安浦ゆき」の場合
経由:北陸・湖西・東海道・山陽・須波
 ここでは、他が線名なのに、須波だけなぜか駅名になっています。どうしてでしょう。

 ちょっと地図を見てみましょう。右図です。左右に通る線は山陽本線、三原から海田市までUの字に走る線が呉線です。金沢から安浦に行く場合、このエリアでは2通りの行き方が考えられますね。

(1)三原・海田市・矢野を通るコース。
(2)三原・須波を通るコース。

 仮に、「北陸・湖西・東海道・山陽・呉線」と全部線名で経由表記すると、この2つのルートが区別できなくなりますね。ルートが違えば運賃が変わってくることから、これは許されないことです。

 そこで、経由は原則線名でなされますが、線名では区別できないケースが生じる場合、駅名で特定することになっている(ようです)。これなら(1)と(2)を区別できますね。

 ちなみに、特定に使われる駅名は、須波のように分岐駅から1つ隣の駅が使われることが多いようです。ただし、静狩(長万部の2つ隣)、青森(分岐駅)のように、例外も見られます。

2.「線」が付くものと付かないものがある。
case2.「盛岡から尼崎ゆき」の場合
経由:田沢湖線・奥羽・信越・北陸・東海
 これ、どうして最初だけ「田沢湖」なのでしょう。

 それは、田沢湖線に「田沢湖」という駅があるからですね。単に「田沢湖」と書くと、田沢湖駅なのか、田沢湖線なのか区別がつかなくなります。このケースの場合は田沢湖を通りますが、雫石から盛岡に行く場合などは田沢湖を通りません。そこに「田沢湖」と経由を入れてしまうと混乱してしまいますね。そこで、線名と同じ駅名がある場合は、経由に線名を入れる(ようです。)。

3.新幹線はやっぱり特別なのだ。
case3.「新大阪から尾張一宮ゆき」の場合
経由:新大阪・新幹線・米原・東海道
 新幹線、やっぱ特別な存在なんですね。経路に新幹線が入る場合、「新幹線に乗る駅」「新幹線を降りる駅」が経由地になり、その間にさらに「新幹線」が経由として入ります。

 ただし、長野新幹線(並行在来線がないため、単一路線として扱う。規則16条の4)や、自動券売機で発券されるきっぷの場合、乗車駅と降車駅が省略されることが多いです。

case4.「仙台市内から大阪市内ゆき」の場合
経由:新幹線
case5.「長野から舞浜ゆき」
の場合
経由:新幹線・高崎線・京葉線
case6.「大阪・新大阪から岡山・大元間ゆき」
の場合
経由:新幹線


4.第三セクターも同じなのだ。
case7.「直江津から東新潟ゆき」の場合
経由:信越・犀潟・ほくほく・六日町・越後滝谷・信越・白新
 こちらは説明不要ですね。と同じです。

5.線名は、基本的に本名で勝負(でも省略もあるのね)。
case8.「熱海から南小松島ゆき」の場合
経由:東海・山陽・宇野線・本四備讃・予讃・高徳・牟岐線
 「本四備讃線」って、どこを走っている線?と思われた方もいらっしゃると思います。これ実は、瀬戸大橋線のことなんです。瀬戸大橋線は通称名で、実際は岡山−茶屋町間は宇野線、茶屋町−坂出間は本四備讃線、坂出−高松間は予讃線で、これを総称して「瀬戸大橋線」と言っているんですね。経由は経路の特定ですから、原則本名でなされます。

 しかしながら、先頭の「東海」。正式には「東海道本線」ですが、省略されてますね。「線」「本線」が省略されるのは本稿を見ていただいていると分かると思いますが、「道」も省略なんですね。通りがいいから、ってことなんでしょうか。これは駅によって取扱いが違い、殆どの駅ではきちんと「東海道」と表示されます。

6.乗らなくても経由、乗っても経由にあらず。
 ややこしくなってきました。この表題については、数パターン存在します。順を追って見ていきましょう。
○特定区間の運賃計算の特例による場合
case9.「尾道から小郡ゆき」の場合
経由:山陽・岩徳

 これは、で出てきた呉線。この線を通って尾道から小郡まで行く場合のきっぷです。「『呉線』の記載がない!」と思われた方はスルドい。JRに転職・就職したほうがいいかもしれません。

 これには、明確な根拠があります。時刻表の呉線のページを開いてみて下さい。欄外にこういう記載があるはずです。
 「三原以東(糸崎方面)と、海田市以西(向洋方面)の各駅との運賃・料金は、呉線経由の場合でも、山陽本線経由の営業キロによって計算します。」

 ・・・ということなんですね。これは、呉線が山陽本線のバイパス的な役目を果たしているからです。ちなみに、山陽本線経由にしてくれたほうが22q短くなり、そのぶんきっぷも安くなります。これで呉線・山陽本線どっちに乗ってもいいなんて、しかも両方で途中下車もできる(片道101qを超える乗車券の場合)なんて、ちょっと得した気分ですね♪

 このような区間は、全国に4箇所あります(時刻表ピンクのページ参照)。

区間 経路 運賃計算の経路
北海道 大沼−森 函館本線(大沼公園まわり)22.5q
函館本線(東森まわり)35.3q
函館本線(大沼公園経由)、きっぷの経由表示は「函館」(規則69条1項1号)
関 西 山科−近江塩津 東海道本線・北陸本線 93.6q
湖西線 74.1q
湖西線、きっぷの経由表示は「湖西」(規則69条1項2号)
中 国 三原−海田市 山陽本線 65.0q
呉線 87.0q
山陽本線、きっぷの経由表示は「山陽」(規則69条1項3号)
岩国−櫛ヶ浜 岩徳線 43.7q
山陽本線 65.4q
岩徳線、きっぷの経路表示は「岩徳」(規則69条1項4号)


○乗車区間の特有事情による場合
case10.「新今宮から森田ゆき」の場合
経由:関西・大阪環状・西九条・東海道・湖西・北陸
 先頭の「関西本線」って、何なんでしょう。実は、きっぷの区間に秘密があります。

 きっぷに示された区間のうち、新今宮−今宮については、関西本線と大阪環状線が並行して走っています。この場合、大抵なら線路の所属(線路の戸籍)はどちらか一方の所属になるのですが、この区間は関西本線と大阪環状線の両方に重複して所属しています(線路の二重戸籍)。このような例は全国的にも珍しいです。

 で、「このきっぷでは大阪環状線にしか乗ってはいけない」とは言えませんから、戸籍が2つある限り、律儀に両方の路線を挙げているわけですね。

 ちなみに、ここで「西九条」が経由地に出てくるのは、と似たようなケースで、お分かりだと思います。環状線は円形の路線。新今宮から大阪へ出る方法は、同じ大阪環状線ながら西九条経由と鶴橋経由、2ルートが考えられるからですね。

○特定列車による運賃・料金計算の特例による場合
case11.「東京都区内から青森ゆき、乗車列車が特急寝台『あけぼの』号」の場合
経由:岩沼・東北

 に、なるはずです。この「あけぼの」号は、上野から高崎線・上越線・信越本線・羽越本線・奥羽本線を通って青森に行く列車です。よって通常ならきっぷの経由は「高崎線・上越・信越・羽越」になるはずですが、この列車は東北本線列車の補完的役割を果たすからか、大宮−青森間を途中下車しないで直通乗車する場合に限って、東北本線経由の乗車券で乗車できます。

 このような特例は全国で4例。「あけぼの」の他は以下の通りです。

乗車列車 実際の乗車経路 途中下車禁止区間 きっぷの運賃計算経路
特急
「成田エクスプレス」
新宿−品川−東京
(山手・東海道線経由)
新宿−東京 新宿−四ッ谷−東京
(中央線経由)
特急
「成田エクスプレス」
  大宮−池袋 大宮−川口−十条−池袋
(川口・十条経由)
特急
「スーパービュー踊り子」
新宿−山手−新川崎−横浜
(山手・新川崎経由)
新宿−横浜 新宿−横浜
(川崎経由)
特急「はまかぜ」 大阪−姫路−和田山
(東海道・播但線経由)
大阪−和田山 大阪−尼崎−福知山−和田山
(福知山線経由)


7.経由しても、経由にあらず。
 経由地に出てきそうなのに、経由が抜けていること、ありませんか?これもいろいろな事情があって省略されたり、わざと書かれていなかったりするようです。順に見ていきましょう。
○東京都区内または大阪環状線を通過する乗車券の場合
case12.「横浜市内から浅香ゆき」の場合
経由:新横浜・新幹線・新大阪・東海・阪和

 これ、「大阪環状線」が抜けていますね。どうしてでしょう。時刻表のピンクのページによりますと、case12のきっぷの場合、大阪−天王寺間の経路は、
(1)大阪−西九条−天王寺
(2)大阪−鶴橋−天王寺
(3)大阪−尼崎−(JR東西線)−京橋−天王寺
の経路に乗車することができ、途中下車(片道101qを超える乗車券の場合)もできます。特例としてこれだけの経路が選択できるので、規則上はこの区間につき経路指定をしないことになっています(規則70条)。

 この場合、運賃計算上の経路は、大阪−鶴橋−天王寺(最短距離)で計算されます。

○「いちいち書かなくても、分かるんじゃないですか」、な場合?
case13.「水戸から湯檜曽ゆき」の場合
経由:水戸線・両毛

case14.「大湊から中小国ゆき」の場合
経由:大湊線・東北

case15.「福井から京都ゆき」の場合
経由:北陸

case16.「北九州市内から東京都区内ゆき」の場合
経由:山陽・東海道

 case13の場合は「常磐・上越」が、case14の場合は「津軽」が、case15の場合は「湖西・東海道」が、case16の場合は「岩徳」がそれぞれ省略されています。

 これらは、どうしても理由がわからないんですね。そこで無理矢理考えてみるのに、「書かなくても分かるじゃないですか」ということ。case13の「常磐」は後に水戸線の記載があるし、case14の「津軽」は、経路上、省略している路線以外では行けないこと、case15の「湖西・東海道」、case16の「岩徳」は特例によるもので、表示してもしなくても運賃計算上不都合はない、といったところでしょうか。


あとがき

 何かこう、文体の歯切れが悪いですね。というのも何となく書いていることに自信がないためです(笑)。結論も出ずじまい。この件について、詳しくご存知の方がいらっしゃったら、馬鹿な管理人にご教示いただきますよう、お願いいたします。

 きっぷに控えめに小さく書かれた地名、線名とはいえ、調べはじめると奥が深いですね。時刻表のピンクのページとにらめっこしたんですが、運賃計算上の特例がいろいろあり、経由地表示はそれと複雑に絡み合っていることがよくわかりました(何を今さら。)。

 また、本稿の作成にあたり、Oさんからご教示いただきましたことを申し添えます。ありがとうございました。

 最後に、経由地から経路を割り出してみる、というのはいかがですか。下に並んだ線名は、「日本最長の片道きっぷ」の経由です。数が多いからか、経由駅は省略されているようですが、お暇な方は、頭の体操に挑戦してみて下さい。

 ◇日本最長(2000年12月現在)の片道きっぷ

きっぷの区間 稚内から肥前山口ゆき
経由線区 宗谷・石北・釧網・根室・富良野線・函館線・室蘭線・千歳線・函館線(大沼公園経由)・江差線・海峡・津軽・東北・花輪・奥羽・五能・奥羽・羽越・米坂・奥羽・田沢湖線・山田・釜石線・東北・大船渡線・気仙沼線・石巻線・陸羽東・東北新幹線・東北・常磐・磐越東・磐越西・信越・上越新幹線・越後・信越・上越・飯山線・信越・北陸・大糸・篠ノ井線・信越・長野新幹線・上越新幹線・上越・両毛・東北・水郡・常磐・武蔵野・東北・赤羽・山手・東北・総武・成田線・総武・東金線・外房・内房・京葉・中央・武蔵野・東北・高崎線・八高・青梅(府中本町経由)・南武・東海道・東海道(新川崎経由)・根岸・東海道・御殿場・東海道・身延・中央・横浜線・東海道新幹線・東海道・東海道新幹線・東海道・飯田線・中央・中央(みどり湖経由)・中央・関西・紀勢・和歌山線・桜井線・関西・大阪環状(鶴橋経由)・片町・関西・草津線・東海道・湖西・北陸・東海道・高山線・北陸・小浜線・舞鶴線・山陰・東海道・東海道新幹線・山陽・東海道・福知山・山陰・因美・姫新・山陽・津山線・姫新・伯備・山陽・福塩・芸備・伯備・山陰・三江・芸備・山陽・岩徳・山陽・山口線・山陰・美祢線・山陽・鹿児島線・山陽新幹線・鹿児島線・筑豊・篠栗線・鹿児島線・筑豊・後藤寺・日田彦山・日豊・吉都・肥薩・日豊・鹿児島線・長崎線・佐世保線・大村線・長崎線


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